「乳癌の化学療法」編
乳癌の化学療法 《第103回》 (11月15日付)
補助化学療法 1
以前にもお話しましたが、乳癌の治療で第一選択は、外科的切除が今のところ原則であろうと思います。原則としたのは、病期の進んだ乳癌や、炎症性乳癌など(進行癌)は、第一選択が抗癌剤投与や放射線照射とする場合もあるからです。
外科的切除ができた症例(早期、中期癌)のその後は、どのように治療をしてゆくのか。前回までは「ホルモン療法」について、お話ししましたので、今回は化学療法(抗癌剤療法)についてお話しします。化学療法のうち術後抗癌剤投与、すなわち術後補助化学療法について先ずお話しします。
術後補助化学療法の是非が、比較対象試験で厳密に行われたのは、比較的近年のことです。はじめは、先ず抗癌剤単独で治療効果を見ています。たとえば、50歳以下閉経前で、腋窩リンパ節転移のある患者に対してNSABPB05(National
surgical ajyuvant breast project, B05は試験の番号)は1972年〜1974年までmelphalan(L-PAM)単独投与の有無で、10年無再発生存率と10年生存率に有意に(投与群に)効果を認めています。
しかし、その後の他の多くの試験の結果からは、補助化学療法は多剤併用が単独使用よりも優れていることが示されています。
乳癌の化学療法 《第104回》 (11月22日付)
補助化学療法 2
大阪成人病センターの小山らは、Cyclophosphamide(C)とMMCを用いて、世界的にも早い時代に(1962―1976)術後二剤併用補助療法を行い、術後10年無再発生存率に有意の差をもって、併用群に効果のあることを示しています。
特に、腋窩リンパ節転移個数からは0個の群や、4個以上の郡よりも1―3個の群が最も有効であったことを示しています。(転移がない場合、局所のみに癌が留まる率が高く、外科的切除で治る率が高いため、余り差がでないと思われます。また、転移個数が多いと、すでに全身を回っている癌細胞も多く、抗癌剤に打ち勝ってしまう率が高く、差がでないものと思われます)。
BonadonnaらによるMiran I(ミラノ癌センターの最初の術後補助化学併用療法試験)はCMF(cyclophosphamide,
methotrexate, 5-fluoruacil)でしたが、12サイクル1年間投与で、リンパ節転移陽性例に行い、無処置群に比して、閉経前症例で、無再発生存率、生存率ともに有意に効果のあることが示されました。その後も多くの試験が多くの施設で行われていますが、CMFでの術後補助療法が今日では最も有用な方法であるとされています。
乳癌の化学療法 《第105回》 (12月6日付)
補助化学療法 3
もう少し、このこと(術後補助療法)についてお話しします。Oxfordのグループはヨーロッパ及び北アメリカの35の施設の協力で、各施設で行った試験(何らかの補助化学療法群対無化学療法群)をまとめて分析を行っています。試験に加わった患者数9000人で、3372人が50歳以下、5697人が50歳以上でした。
年齢に関係なく分析すると、術後補助療法(いろいろなタイプの療法が混ざっている)によって、再発の抑制、死亡の減少が示されました。どのようなタイプの化学療法でも、50歳以下でも50歳以上でも、再発の減少が見られました。さらに年齢を考慮した分析を行っていますが、以下のことがわかりました。
多剤併用療法は、補助療法を全く行わない例と比べて、大きな効果が得られました。とりわけ、CMFまたはCMFP(PはPredo
nisone)は50歳以下の場合、大きな効果を示しました。
しかし、再発率とは対称的に50歳以上の死亡率を下げる効果は補助療法になく、CMFやCMFPでさえ統計的に有意差のある効果を示しませんでした。単独使用の場合はむしろすこしマイナス効果が見られました。
多くの試験を総合したこの分析からは、「無再発生存率の改善は必ずしも、生存率の改善につながらない」という原則が示されました(無再発生存と言っても、いずれ再発するのであって単に再発を先送りしているものと解釈されます)。
しかしながら、50歳以下では、再発の減少が、死亡率の減少につながっていることが示されています。特にそれはCMFまたはCMFPに著明でした。
乳癌の化学療法 《第106回》 (12月20日付)
補助化学療法 4
日本では、CMF(cyclophosphamide,
methotrexate, 5-fluoruacil)のM(メトトレキセート)にかえて、ドキソルビシンやエピルビシンなどの抗癌剤も使用されています。欧米では、経口抗癌剤はあまり使われていませんが、日本ではフッ化ピリミジン系の経口剤であるUFT、テガフール、5'DFUR,
5-FUなどの薬剤が多く用いられています。
ここで、ホルモン療法と化学療法の併用療法について述べる前に、以前に質問のあった「ホルモン療法が、閉経前と閉経後のどちらに有効であるか」――についてお話しておきます。
1975年〜1978年にコペンハーゲンで最初のタモキシフェンのトライアルが行われました。閉経前と後の患者さんにタモキシフェンと偽薬(placebo)との比較をしてみたところ、唯一有効だったのは、閉経後の患者さんの5年健存率だけでした。その後の多くの追試の結果も、ホルモン療法の有効性は閉経後の患者さんに傾いています。
petoらの世界中の比較対照試験の集計では、化療をした群としない群、ホルモン療法をした群としない群で、閉経前と閉経後では明瞭な差が示されました。
それは、ホルモン療法は閉経後の患者さんに有効ですが、閉経前の患者さんには無効でした。逆に、化学療法は閉経前の患者さんには有効であるけれども、閉経後の患者さんには無効であることが示されました=表1。
| 化学療法 | ホルモン療法 | |
| 閉経前あるいは50歳未満 | 有効 | 無効 |
| 閉経後あるいは50歳以上 | 無効 | 有効 |
乳癌の化学療法 《第107回》 (1月17日付)
補助化学療法 5
化学療法とホルモン療法の組合せは、単純に考えると、相乗効果がでそうに思われるかも知れません。閉経前の患者さんに対しては、むしろホルモン療法(タモキシフェンによる女性ホルモンのブロック)は癌細胞を細胞分裂の休止期に入れてしまい、抗癌剤(分裂期に作用する抗癌剤の場合)の感受性を落としてしまい、抗癌剤単独より効果がおちるという説もあります。
多くのトライアルがありますので、ざっとこれらをみてみます=表2。ホルモン療法+化学療法(T+C)と補助療法無しの比較では、Ludwig
Vのトライアルのみが、閉経後の患者の生存率(over all survival)を上げ得ました。
ECOGトライアルはCMFpT(T:タモキシフェン)、CMFp、補助療法無しの3技での比較で(閉経後)、生存率(over
all survival)については、CMFpTはむしろ補助療法無しより悪い結果を出しています。
化学療法(C)と化学+ホルモン(C+T)療法の比較では、NSABP
B-09トライアルではPAMF対PAMF T(T:タモキシフェン)で、後者が閉経後では健存率や生存率で有意に有効であったとされていますが、閉経前では全く効果を認めていません。
Danishトライアルは、ほとんどが閉経前の患者で行っていますが、CMFとCMFT(T:タモキシフェン)の比較において無再発生存率は51%と47%で有意差はありませんでした。
BelgiamのトライアルではCMFとCMF+MPA(以前にお話しましたが抗ホルモン剤です)の比較で、閉経後では後者が無再発生存に有意差を認め、生存率では効果の傾向はあるものの、有意差は認めていませんでした。
一方、閉経前では無再発生存率は前者が76%、後者が49%でした。さらに5年生存率は81%と68%で有意に抗ホルモン剤を加えた群が悪い結果を示しました。
NCCTG(North central cancer treatment group)のトライアルでは、閉経前の患者さんにCFPとCFPT(T:タモキシフェン)を無作為に投与して比較していますが、再発率は有意差はないものの、前者が47%、後者が39%で、少しホルモン付加が良好でしたが、予後因子である腫瘍径やリンパ節転移個数などをそろえて比較したところ、無再発生存率は有意差がありませんでした。
Ludwig Uのトライアルでは、閉径前の患者さんにCMFpとCMFp+卵巣摘除で比較していますが、生存率は41%と50%と数字の上では後者がよいのですが、有意差がありませんでした。
ER(+)に絞った無再発生存率は、後者にわずかに効果がみられましたが、ER(−)ではCMFp投与群と後者CMFp+卵巣摘除群と有意の差は認めませんでした。
これら2つのトライアルだけが、閉径前でわずかにホルモン療法付加の有効効果をみています。閉径前での化療+ホルモン療法は無効と考えられます(禁忌ではない)。
〔表2〕化学療法(化)十ホルモン療法(ホ)のトライアル抜粋
| 1.化+ホ 対 無投与 | ||
| 閉径 | ホ+化の効果 | |
| Ludwig V | 後 | 生存率良い |
| ECOG | 後 | 生存率悪い |
| 2.化+ホ 対 化 | ||
| 閉径 | 化+ホの効果 | |
| NSABP B-09 | 後 | 健存、生存率とも有効 |
| 前 | 無効 | |
| Danish | 前 | 健存率:有意差無し |
| Belgian | 後 | 健存率:有意差あり 生有率:有意差無し |
| 前 | 健存率:悪し 5年生存率:悪し |
|
| NCCTG | 前 | 再発率:低い |
| 前 (予後因子を揃えた) |
健存率:有意差無し | |
| Ludwig U | 前 | 生存率:有意差無し (数字の上では良好) |
| 前 ER(+) | 健存率:わずかに良好 | |
| 前 ER(−) | 健存率:有意差無し | |
| 3.化+ホ 対 ホ | ||
| 閉径 | 化+ホの効果 | |
| Ludwig 皿 | 後 | 生存率:わずかに良い |
| NSABP B-16 | 50〜59歳(PgR+) | 生存率:わずかに良い |
| 60〜70歳 (レセプター無関係) |
生存率:わずかに良い | |
| SWOG | 後 | 5年生存率:有意差無し |
| Italy-GROCTA | 後 | 健存率、生存率:わずかに良い |
乳癌の化学療法 《第108回》 (1月24日付)
補助化学療法 6
次にホルモン療法対化学療法+ホルモン療法のトライアルについてお話しします。Ludwig
Vのトライアルは、閉経後の患者さんにpT(T:タモキシフェン)群とCMFpT群の比較において、生存率でわずかに後者の群に有効性を認めました。
NSABP B-16では、CAT群とT群の比較をしていますが、リンパ節転移陽性50〜59歳のPGR(+)で、また、ホルモンレセプターに関係なく60〜70歳の群でホルモン療法と化療の複合療法が生存率でわずかにホルモン単独より優れていました。
このLudwig VとNSABP-B16のトライアルとは違って、次の2つのトライアルは化療にホルモン療法追加の有効性を示さなかった例です。
SWOGトライアルでは、TとCMFVPとCMFVP+Tの3者を比較していますが(閉経後)、5年生存率はそれぞれ77%、78%、73%と有意差なく、有効性は認められませんでした。
Italy-GROCTAトライアルでは、同じく閉経後を対象にしていますが、T,CMF-E(E:エピルビシン)、CMF−E+Tそれぞれの比較では、ホルモン対化療では無再発生存率と生存率の療法で有意に前者が優れていました。
しかし、TとT+化療の比較では、健存率(=無再発生存率)、生存率ともに前者より後者がわずかに優れている(有意差無し)結果でした。
乳癌の化学療法 《第109回》 (2月7日付)
補助化学療法 7
大変混乱するようなデータの羅列が続きましたが、要は、乳癌の補助化学療法あるいは補助ホルモン療法においては、膨大なデータの分析の結果、閉経前の場合、化学療法が効果あり、閉経後の場合は、ホルモン療法が有効であるとされ、ホルモン療法に化学療法を加えても、閉経後はどうやらそれほど効果を得られない。閉経前においては、むしろ逆効果を生みかねない、という結果だろうと思います。
最近、たとえ閉経前でも、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター陽性ならば、ホルモン療法も投与方法によっては、有効な治療法になりうるのだとの意見があります。
閉経前に化学療法が効果的であることに関して、化学療法はCMFで、Cであるエンドキサンはそもそも卵巣機能を抑える働きもあり、これによって、女性ホルモン(エストロゲン)が抑えられ、ホルモン療法となっているのだとする見解もあります。閉経前の場合に化学療法からこの内分泌効果を差し引くと、閉経後に対する化学療法の場合と効果にあまり差がないのだとする意見もあります。
従って、閉経前の乳癌患者にもエストロゲンを抑える酢酸ゴセレリン(LH-RHアゴニスト)を使って卵巣機能を完全に抑え、さらに乳癌細胞のところでエストロゲンをブロックするタモキシヘンを用いれば、より大きな効果を上げ得ると考えられ、実際にそのような効果をあげつつあるトライアルもみられます。
このような、複合内分泌療法の考え方は、理論的に有効性があるとおもわれ、日本でもトライアルが始まっています。つぎに、進行再発乳癌の治療について述べてみます。