文 芸

 更埴新聞俳壇 (「るつぼ」本部句会)

(10年9月5日付)

桑の実や祖母のおはぐろ眼裏に 

池田 幹男

命一と日凌霄花炎(ほ)を零しつつ一途なり 坂口美智子
栗咲く香澱める雨の投票所 風間田鶴子
一人住む婆一匹の蟇 猿渡 藜子
黒南風や重石のごとく山暮るる 市川まち子
千の風窓より訪い来夏座敷 山本 美紗
無農薬キャベツ虫食う吾も食う 風間 修二


 更埴新聞歌壇 (白嶺会詠草)

真島 正子選 (10年9月5日付)

五分咲きの薔薇園の小道は人の波甘き風渡る木漏れ陽の下 

松尾 さち

紫陽花の咲きたる庭に梅雨めける雨降り注ぎ藍色深む 

小澤栄美子

美しき時も過ぎ去り頭(こうべ)下げ何の懺悔か芍薬あわれ 宮坂美智子
はらからが心よせあい我がための米寿の祝いに招いてくるる 酒井 しん
善光寺の赤き団扇を頂きぬ御利益あるか夕涼みの夫 白石 辰美
綾戸千恵ロックで唄うアメージングその余韻を眼つむりて聞く 宮下む津子
とうとうと流れる川は稲育て台地うるおし猛威もふるう 若林 勝子
田植え終えまだ濁りいる水面にも夜半に月の照り映えるかな 田中 秀夫
花も葉も枝も動かず灰色の空も動かず梅雨も終らず 中澤 弘一
新緑の山間流るる犀川に若き声のせカヌー下り行く 青木 昭三
ちぎり来て放っておきしサボテンが新葉を伸ばし我を驚かす 

中村 綾子

膝関節痛みにたえる肥満体膝の泪と医師は言いたり 宮坂 悦子
梅雨晴れ間草むしりする老夫婦ただ黙黙と黙黙として 中澤 忠人
ながながし鼻炎に負けそう芥川の「鼻」の治療まねてみたくなる宮原 和子
紫のラベンダー香るガーデンにしばしの憩いはつなつの詩宮坂  信
初夏の陽に紫陽花映ゆるさ庭辺に子等より贈られし花々あまた五十嵐昭子


 更埴新聞歌壇 (ゆうすげ卯月例会)

神尾 直子選 (10年9月5日付)

山里の博物館のアンモナイト海底の話聞きたい五月 

倉石みつる

小国も大国も互角W杯 ウルグアイ・スロバニア地図に確かむ 

鴇澤 たか

山また山ふかき緑のなかを行く宿場めぐりの善行寺道 北村 克子
文月の郭公を待つ金曜日昏ゆくままに雨を見ている 伊藤 恵子
青葉風前の山より吹き下りる真つ赤なケシの群がり笑ふ 山本美代子
恩師逝くモディリアーニが好きだつた虚ろに光る女の青き目 海野 晴子
このところ同級生の訃報ばかり 同窓会ドラマ「ラヴアゲイン」 武田 利江
桐の花うす紫に咲き誇り一樹が山に際立ちて見ゆ 小林 郁代
あをあらし楓の細木ゆれてゐるかたへに松の木巌として立つ 清水 元江
人気なき動物園の昼さがりホロホロ鳥がホロホロと鳴く 増田きみ江
四十雀郵便受けに巣を作り卵抱きて吾を威嚇す 

柴本恵美子

それぞれのドラマのありし人形館野良着の祖父母に思ひの巡る 栗林 園子
身辺の整理なかなかままならぬ重ねし歳月短かざりしよ 長島よしの
此の年は春短くて花惑ふそれでも五月の百花繚乱 竹田 晴子
足のばす田植えのあとの露天風呂眩しく光る五月の緑 篠原まさ子
バラ園のバラに恩師の名もありて青春期かへり黄のバラ咲く児玉千恵子
ゆすらうめ摘みつつ食みて戯れしチガヤの辺り種をとばせり小林  禮
焦りつゝぶどうの摘粒作業する郭公の鳴き気持ち柔らぐ栗林 千枝
旧友と久方ぶりに湯の宿に想ひ出尽きぬ夜の明けるまで小林とも子
直江津の海風に会ひ芝犬は母思ひてか夏樹見上げる栗林 昭子
見下ろせば山間の村は田植えなりその労働に感謝の思ひ山ア 久子
柿の花落つるや 歩を止めし巣立つつばめが肩よぎりゆく池田 節子


 更埴新聞俳壇 (かさねの会「かさね集」)

(10年8月25日付)

夏暖簾(のれん)大きく割れて主来る 

一 子

戻り来しふたりの暮らし梅漬ける 弘 子
草庵に煌く風や五月尽 晴 子
生き物のどっと動きて山開き 房 子
棕櫚(しゅろ)の花垂れて見守る半世紀 孝 子
向日葵のどこまで伸びて咲けるやら 厚 子
父の日や暦大きな丸じるし 恵美子


 更埴新聞歌壇 (ひまわり歌会詠草)

真島 正子選 (10年8月25日付)

釣舟の激しき行き来野尻湖に外来魚とうブラックバスを追う 

岡澤紀美子

早苗立ち縦縞模様の水鏡をモノレール張り車が走る 

和田 茂男

さわやかな「牧場の朝」を吹く時に口蹄疫の惨状よぎる 伝田 房子
角界の賭博つたえる映像に土俵の亀裂のかいまみえたり 高野 秀子
ももの花匂へる道を見つけしと友の誘ひにうなずきし道 田村美和子
草むらにSの形をなびかせてすべりゆくもの青大将 丸山 清水
老い吾をつつじ祭りに誘いくれ家族みなして庇いてくれぬ 堀内 睦夫
山深き古刹の縁にひねもすを人待ち顔に翁座し居る 宮本 律子
名水の生地温泉にトキの来てつゆの晴間に舞う艶姿(黒部市) 森田 種美
全容を隠すことなくみせた富士梅雨の晴れ間を夕紅に 坂口 和子
広々と色とりどりにバラの咲く坂城の園で唯きれいと言う 

神農さつき

梅雨の晴間物干し満席シャツ、ズボン風吹きくれば陽に遊びゐる 宮川 佳子
真剣な子ら合奏の音楽会新樹のごとき勢いを受く 宮本 敬子
かくれんぼう幼二人が鬼となり障子に張り付きもういいかい宮崎 久子
水芭蕉尾瀬沼に咲きすばらしい 友と二人で木道を行く永井 美幸
「阿鼻叫喚胸に焼きつく浜恐し」とひめゆり学徒は八十路の今も三宅 泰子
梅雨さなかハッピー旅行はトキを見て夕陽スポットの生地温泉森田 和宏


 更埴新聞俳壇 (かさねの会「かさね句集」)

(10年8月15日付)

竹の子や十二単の皮をむく 

恵美子

鉄線花パズルのように蔓からむ 一 子
黒猫の真紅の芥子の径に入る 弘 子
甍蹴り空に舞い出す鯉幟 晴 子
葉桜が包んでおりぬ子の眠り 房 子
鯉のぼり田毎の棚田泳ぎけり 厚 子
採り名人我が家にをりてうどこごみ 孝 子


 更埴新聞俳壇 (松毬俳句会 頬白会例会)

湯本 牧人選 (10年8月15日付)

一喝のごとき春雷父の声 

武田 好美

渓谷の行く先きざきに麦の秋 坂口 菊江
更衣少女の凛と弓道着 米澤 恭子
遠くまで飛んで来りし花わたげ 三ツ井幸子
半ズボン両膝丸く赤チンキ 七澤美代子
這い這いの児寄りくるや青すだれ 西村 豊子
山神へ灯明ささぐ水芭蕉 湯本 牧人


 更埴新聞歌壇 (更埴短歌会 詠草)

真島 正子選 (10年8月15日付)

ためらひつつ散る牡丹のくれなゐに失はれたる歳月思ふ 

真島 正子

花の季わすれしやうに一瞬のひとこと逃がし会議を終る 

神尾 直子

足元に椿落ちたり上向きに予期せぬ事の知らせ届きぬ 新井 満里
やわ肌の乙女の如きポピー咲きうすくれないの一片揺るる 藤井 典子
人形はつき出たほっぺにごつい鼻大きな口と不思議なぬくもり 藤本 弘子
旧友と忌憚なく喋る食事会六人集ひてそれぞれの声、声 山崎 花江
荒草を抜きて背のびす青紅葉透かして見上ぐ群青の空 宮西 澄子
秘めごとを抱く如くに夜をかけてほたるぶくろの白々ふくらむ 黒岩みどり
歩く度こきこき鳴ると訴へるに「古今和歌集か」と医師軽く言ふ 宮坂けさ江
ショパン聴く五月雨の宵静かなり庭の紫陽花いま咲かんとす 山崎今朝実
日が経てばだんだん悔しさ増してくる忘れ上手の得意なわれが 

宮島萬里子

胸底に侘しさ溜まり朝まだき〈てっぺんかけたか〉鳴くほととぎす 岩佐香代子
むなしさを抑えて黄カラー抜く朝郭公の声とほく聞ゆる 和田 令花
選ばれしりんごはついと頭あげ天に向かって日々太りゆく荻原 恒子
週明けは次の日曜待ち遠し指折り数え訪ねくる孫下平 伯郎
たそがれに大手鞠の花崩る もはやこれまでを見つめてをりぬ太田 淑子
根掘り葉掘り問ひ来る口をかはしゐるそんな昔の恋の話は青木すみ江
郭公よ鳴いてばかりじゃ分からない何鳥の巣に托卵せしか桜井 伸枝


 更埴新聞歌壇 (八幡短歌会 詠草)

真島 正子選 (10年8月15日付)

浅草寺仲見世通り散策し築地に行きて旨し昼の寿司 

北村  毅

飴色に蕗の煮上り茶を淹(い)れて友と語りぬ老いの行方を 

宮西 澄子

鹿児島にて天気予報に日本地図「遠くへきたね」と幼に語る 青木 克子
「ひろしまとながののじいちゃん、顔ちがう」大発見のおさなは叫ぶ 西沢 治子
夏至の日の朝明けの空すがすがし二羽の鳩来て鳴きはじめたり 宮嶋すみ江
毛染めやめ一年半たつこのごろはやっと見馴れる鏡の自分 浦沢 裕子
紫陽花の色づきそめし境内の眺めも楽し日々変りゆく  原田やす子
梅雨晴間さ庭の池にさゆるぐ花さつき、菖蒲に魚も寄添う 北澤フサ子
年重ね彩増して咲く紫陽花にちょっぴり妬みつ九十五歳 色部 澄江
天気良し梅雨の晴間の紫陽花は薄紫に蕾ふくらむ 山崎今朝実
白じろと空に向いてリラの花母のやさしさただよわせ咲く 

春原はる江

定年後は自適の時と思いきに老いの身宥め今も現役  下平 伯郎
「はやぶさ」の落とせし小箱砂漠よりロマンを秘めてこの地につきぬ 新井 満里
路地裏のあじさいの花に雨の降るつばめがす―とかさをかすめて小滝 静子


 更埴新聞俳壇 (「るつぼ」本部句会)

(10年8月5日付)

山寺やひそかに竹が皮を脱ぐ 

猿渡 藜子

昼寝覚めいずこからかや鳥の声 池田 幹男
柿の花地に落つる音なつかしく 小林 正子
ざぶざぶと水荒使いして溽暑 山本 美紗
父の日の無き世に生きし父鮮明 風間田鶴子
思い出を紡ぐ一日や蝸牛 市川まち子
昼顔や時には吐息しておりぬ 坂口美智子
万緑の奥より風の生まれ来る 風間 修二


 更埴新聞歌壇 (ゆうすげ水無月例会)

神尾 直子選 (10年8月5日付)

マンホールに熟るる杏の彫られゐきいとほしくて踏むをためらふ 

倉石みつる

教会は身内中心の家族葬 時代の流れか宗教感か 

鴇澤 たか

転倒の予防教室皆若し窓の下に咲く牡丹みつむる 北村 克子
六月の白ブラウスの綿ローン私の前は今日より青田 伊藤 恵子
去年の春十株植えし「とちおとめ」三十株に白き花咲く 山本美代子
ネギ坊主破りてみれば分子なり火薬つまりし花火のやうに 増田きみ江
彼方へととつさににげゆく黒い影あれ、あれ、あれと胸に手を置く 清水 元江
満開の桜の枝をびんに差しあげまんじゆうで花見の厨 武田 利江
無精卵と知りて巣より落とすのか桜散る佐渡朱鷺のつがひよ 柴本恵美子
遥かなる真白き山は越後富士か腰のばす畑に地図浮び来る 小林  禮
方代さん右左口郷はどんな村 浄土で詠む歌聞かせ給へよ 

長島よしの

花の季に雪積もりたる小梅なり結実どうか今日の真夏日 栗林 園子
初夏の庭夫が手入を重ね行く朝な夕なにこころ癒さる 小林 郁代
ポトポトと雨だれはじく露天風呂恵みの雨の温りほほに 児玉千恵子
柿若葉輝く空に一条の雲を残して飛行機は消ゆ 海野 晴子
満開を雪に押されし雪柳頭をあげし強さをおもふ篠原まさ子
孫たちがおばあちゃんには内緒よと私の古希を祝ひくるるも竹田 晴子
庭先にツツジみごとに咲きほこる夫にも見せたき思ひつのれど小林とも子
色あせし廃品車に積むキノコビン夜なべせし小屋シャッター下ろす栗林 昭子
無造作にバット置く少年スランプとかぼそき声にぽつりと言ふて栗林 千枝
独り居の雨の一日を不要もの捨てる覚悟で仕分はせしが山ア 久子
招かれし里の祭りの御柱 共に語りし逝きたる兄を池田 節子


 更埴新聞俳壇 (かさねの会「かさね集」)

(10年8月5日付)

上できを詰めし重箱蓬餅 

厚 子

色添えし寺の入口糸桜 恵美子
会釈され思い出せぬ名木瓜紅し 一 子
花冷えや母に安否のリダイヤル 弘 子
窓たたく風のいたずら黄砂来る 晴 子
寺ひとつ沈んでおりぬ花曇り 房 子
霜予防果樹園見廻る夫の居り 孝 子


 更埴新聞歌壇 (八幡短歌会詠草)

真島 正子選 (10年8月5日付)

堂ケ島の小石の浜の水際にひとでやなまこ宿借りも居て 

宮崎 久子

北斉の美人・花・鳥収まれる江戸の風情の小布施に残る 

岡澤紀美子

新緑に浮き立ち見ゆる桐の花 胎動ありと姪は話せり 宮本 敬子
お料理も塩塩梅で味別れ加減次第で道のわかれ目 和田 茂男
平野さん達と温泉へ天気もよく御馳走も頂き夜景を眺める 神農たつき
梅雨の晴れ間額紫陽花をののさまにバナナを祖母にお供えしたり 永井 美幸
「こんにちは―」体いっぱい声にして園児の列が城小路くる 高野 秀子
ひさびさに夕食の用意お願ひと言われて作る「すいとん」うましと 田村美和子
島めぐる旅で求めし万葉の海人も焼きたる藻塩はあまし 伝田 房子
温もりと古き良き日の輝きを内山和紙の人形たちは 坂口 和子
風立ちて牡丹の花の散り急ぎ舞ふ花びらの夕べを惜しむ 

宮川 佳子

筑波路の宇宙センター見学すおどろくばかり老いの目覚める 堀内 睦夫
お茶会の抹茶差し出す少年は青い眼に金髪カール 宮本 律子
うす紅のヒマラヤ岩塩美味なりし昔海だとこれ又不思議丸山 清水
塩かます道の両端にまとめ置く見渡すかぎり塩田つづく(タイ国)森田 種美
母の想ひ滲む四君子の綴れ帯尽きぬ名残りを友は活かせり三宅 泰子
嬉嬉として山菜取りの幼子は声も高らか高原にひびく森田 和宏


 更埴新聞歌壇 (白嶺会詠草)

真島 正子選 (10年8月5日付)

氷見の旅 富山の人は仏壇とお墓、瓦に金をかけるとか 

松尾 さち

憧れの国家試験の合格に金一封を包んであげる 

宮下む津子

父母恋し命引きつぎ現世(うつしよ)に歳長らへて米寿を迎ふる 酒井 しん
朝なさな身めぐりに鳴く郭公の托卵いずこ声冴え渡る 五十嵐昭子
孫と行く出生届の子守り役眠る曾孫の幸を祈りぬ 白石 辰美
陽ざし受けつつじ・皐月の紅燃えて庭面華やぎ心若やぐ 宮坂  信
青空の映る代田も田植機に水面ゆらめき青田となりぬ 小澤栄美子
足湯する老いにまじりて若者の介護士さんらし(鯉のぼり)歌う 宮坂 悦子
風みどり 道の駅にはふき、わらび北信濃路の大好きな初夏 中澤 忠人
みちのくの旅の思い出風にのせ南部風鈴の澄みたる音色 宮坂美智子
密教の世界を現す曼茶羅の宇宙の中の我は星かも 

田中 秀夫

善光寺「お朝事(あさじ)」供養で父母の顔 浮かんだあのとき少女となりぬ 宮原 和子
天空に連なり泳ぐ鯉のぼり育ちし子等はいずこに泳ぐや 青木 昭三
笑顔しかあげるものがないのよというかのように母笑みている中村 綾子
「きぼう棟」日本の頭脳が交信して世界の夢のせ宇宙プロジェクト若林 勝子
幸せは緑の葉先きがあたたかき光の中で跳ねている今中澤 弘一